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無人島に持っていくCD

相変わらず数字の海から抜け出せない。

今年の夏はこれで終わりそう。

こんな気詰まりを慰めてくれるのは、バッハの無伴奏チェロ組曲。

数あるバッハの作品の中で、名曲中の名曲であろう。

15年ほど前、体調を崩し、スポーツもお酒も禁止。2-3年ゴロゴロしていた。

見舞いにと、友人がくれたテープの中に、曲の一部が入っていた。これが最初の出会いと思う。

その頃は、毎晩寝る前に聞くのが日課。鬱々とした日々、この曲によって命を救われた。何回聞いても飽きない。音のゆりかごの中に身も心も委ね、くつろぐ。

その後、ヨーヨー・マ、ミッシャー・マイスキー、パブロ・カザルス、チャバ・オンツァイなど、名演奏家のCDを購入し、聞き比べていた。

最近友人のブログで、アンナー・ビルスマのことを知った。チェロの名演奏家であり、ヨーヨー・マも師事していたそうな。

無伴奏組曲は、1979年にバロック・チェロで録音しているが、1992年にモダン・チェロで全曲弾きなおした。この1992年の演奏がブログのテーマとなっている。

友人の紹介文は素晴らしい。題して、「語る音楽、ビルスマのバッハ」。ビルスマの演奏を通じて、バッハが直接語りかけるのだそうだ。(原文はこちら http://blog.so-net.ne.jp/egg2006/2007-07-13 )

これは聞かねばならぬと早速購入。

ほんとにそうだ。ゆったりと、かそけき音で、語りかける。一音一音、丁寧に音を紡ぐ。自分の技量や曲の解釈におぼれることなく、ただひたすら音に心をこめて、聞くものに手渡す。波が静かに寄せて返すように、音のつながりが言霊となって、直接心の深淵に届く。こんな演奏は聞いたことがない。

前出のすべての演奏家は、自分のバッハを奏でている。「音のゆりかご」と称したが、いい具合にゆすってくれるのだ。

ビルスマの演奏は、ゆすってあやすのではない。誰にも見せたことのない、聞き手のサンクチュアリに、するりと入ってしまう。そして、心に直接バッハを奏でる。奏者はひそやかに譜面の陰に隠れ、自らを主張することがない。そして、なんとも肯定的なのだ。「君が生まれてきたこと、君が今日生きていること、明日も生きていこうとすること、どんな形であれ、それだけで十分、そのことが素晴らしいのだよ。」と。

「無人島へ持っていく1冊の本」という表現があるが、これはまさに、「無人島へ持っていく、1枚のCD」といえよう。

蛇足だが、1979年録音のCDも、後追いで購入し聞いた。こちらは「音のゆりかご」だった。1992年の演奏は、天才が年を重ね、技量を積んで到達する、仙人の演奏なのかもしれない。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

その“友人”です。
猫の手も借りたいほど忙しいというのに
我が家のネコどもは寝てばかり、いや寝たふり?
そんなわけで、ビルスマも、バッハも、音楽もご無沙汰。
お盆の休みにはゆっくり聴きたいものです。
あっ、でも今度は孫たちが来る、、、

ビルスマの旧盤は未聴です。
興味はあるけれど、新盤との違いが気になるやもしれず、もう少し時間をおいてからにしようと思ってます。

投稿: eguchi | 2007年8月 9日 (木) 20時53分

記事に触発され、手持ちのCDと聞き比べをしました。

演奏の感想は主観的になりますので、演奏時間で比較。
第1番のプレリュードと第5番のサラバンド(ベルイマンの
最後の作品に使用された)を対象としました。

        プレリュード  サラバンド
フルニエ      2'50   3'29
ロストロポー
ヴィッチ       2'04   3'51
マイスキー(旧盤) 2'38   4'54
      (新盤) 2'13   4'15
ヨーヨーマ(新盤) 2'23   3'31
ウィスペルヴェイ  2'18   3'35
クニャーゼフ    1'53   5'08

ビルスマ(旧盤)  2'07   3'13
     (新盤)  2'48   3'13

その他、トルトゥリエ、シュタルケルはLPのため、探したが
見つからず。

ご覧のように、ビルスマの新盤とフルニエはよく似ています。
トータルでは若干フルニエが長いが、聞いた印象でもよく似ている
気がします。

一方、改めて感心したのはロストロポーヴィッチ。
初めて聞いたときは、10年早く録音してくれていたら
と残念に思ったものですが、今回聞きなおすと
他のチェリストとは次元が違うかな、という印象です。

ともあれ、バッハのこの曲は名曲中の名曲ですね。

今後も、注目のケラスなど続々発売されるようです。

投稿: kita | 2007年8月24日 (金) 23時20分

kitaさん、投稿ありがとうございます。

さすがすごい。フルニエなんて、私知りません。

ロストロポービィッチは、読響でタクトを振ったのを、何度か聞いています。曲は忘れましたが、多分ショスタコ辺りでしょう。素晴らしかったです。

チェロの演奏は生で聞いたことはありません。テレビでは聞いたことあります。たしかCDは、1枚持ってたはずですが、「チェロ名演集」みたいなので、カザルスやらと一緒に入ってたんじゃないかしら。

これはまた聞いて見なくてはいけませんね。

また時々遊びに来てください。

投稿: anan | 2007年8月25日 (土) 13時47分

ロストロポーヴィッチは、1970年の大阪万博の際、集中的に
聞きました。凄かった。この頃、バッハを録音してくれればと
思ったものです。

蛇足ながら、万博には多くの演奏家が来日しましたが、一番
記憶に残っているのは、セル指揮クリーブランド管弦楽団の
演奏です。モーツァルトとシベリウスを聴いたのですが、い
まだに最高の演奏会の一つと信じています(幸い東京文化
会館での実況録音がCDに残っています)。
セルは帰国後すぐになくなってしまいました。「白鳥の歌」を
聴かせてくれたのでは。

投稿: kita | 2007年8月25日 (土) 20時31分

横から失礼します。
kita様、大阪万博でのセル/クリーブランドを聴かれたのですか!
セルの死後になって聞き出した私にとっては一生の不覚とも言えるような出来事です。
ほんとうに羨ましいといいますか、なんといいますか。
シベリウスのライブ盤は、別格中の別格としてCDラックに収まっています。
http://blog.so-net.ne.jp/egg2006/2007-01-12
ここでちょっと触れています。

ananさん
場所をお借りしてのPR、ご容赦を。

投稿: eguchi | 2007年8月26日 (日) 13時35分

eguchi様 何気なく蛇足でセルのことに触れたのですが、
反応にびっくり。ブログを読ませて頂きました。キーワードにもあげておられますね。大したものです。
セルはいまだに日本では過小評価されていますが、大指揮者
であったと思います。トレーナとしても第1級。厳格な性格
で楽員からは憎悪の対象だったようですが、音楽は素晴らし
かった。

ブルックナーの8番は超名演でしたし、「新世界」をはじめとするドヴォルザークは自身

投稿: kita | 2007年8月26日 (日) 21時17分

(すみません、誤って途中で送信にふれたようです。続き)
ブルックナーの8番は超名演でしたし、「新世界」をはじめとするドヴ
ォルザークは自身好きだったようで、すっきりとしながら、豊かな詩
情にあふれた名演ばかりです。ベルリン・フィルを指揮したテェロ協
奏曲は、他の追随を許さない内容だと信じています。

投稿: kita | 2007年8月26日 (日) 21時29分

kitaさん、eguchiさん、投稿ありがとうございます。私はそんなにクラシック愛好家というほどでなく、なんとなく聞いているだけ。素直にそのとき心に浮かんだことを書いただけなのに、投稿者の高尚なやり取りにより、すごい場になっております。ありがとうございます。

セル指揮のCDをぜひ聞いてみたいものです。

それにつけても、交響曲を聞くに堪える自宅の再生機事情を整えないと…。

投稿: anan | 2007年8月29日 (水) 20時49分

kita様
ブルックナーの8番、LPでもCDでも、ずいぶんと聴きました。
8番といえばドヴォルザークの方も絶品ですね。
ともかく、モーツァルトもベートーヴェンも、
そしてブラームスも、セルの演奏はみな気に入ってます。

チェロ協奏曲はフルニエですね。
そろそろこの曲を聴きたくなる季節になってきました。

anan様
高尚なやりとりの投稿者です(ウソです)
再生機器は、まぁ良いに越したことはありませんけど、
耳のイマジネーションを、少しだけ広げてくれる、
そんな機械に出会えるといいですね。

*
このコメント、またMacからです。
意味不明の三重送信になりましたら、余分なヤツを削除してください。

投稿: e g u c h i | 2007年8月30日 (木) 11時32分

eguchiさん、いつもありがとう尾ございます。今度は大丈夫。一つしか送信されませんでした。

あ!良い再生機を買う前に、自宅の整理整頓をしなくてはいけません。

投稿: anan | 2007年8月30日 (木) 12時46分

anan様 eguchi様

セルで盛り上がっていますね。
セルも当初は、米コロンビアでなく、マイナー・レーベルの
EPICから発売されていましたが、60年代になって評価
があがると格上のレーベルに昇格。晩年はEMIに録音して
いました。EMI録音のものは、どれも傑作ですね。
eguchiさんご指摘の、ドヴォルザークの第8番もそうです
し、シューベルトのハ長調も大好きです。また、ブラームス
の二重協奏曲(チェロはロストロ)やヴァイオリン協奏曲
など見事でした。

投稿: kita | 2007年8月31日 (金) 10時20分

kitaさん、このページを格調高くしてくださって、本当にありがとう。今週は月末で忙しく、セルのCDを買いに行けませんでした。来週は行けるでしょう。引き続きご指導、ご贔屓、よろしくお願いいたします。

投稿: anan | 2007年9月 1日 (土) 14時40分

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