« 一ノ蔵 | トップページ | 椿開花 »

今井信子 「憧れ」 ヴィオラとともに

Img_1559 昨年読んだ本の中で、”No.1”をつけてもいい。ヴィオラ奏者、今井信子の「憧れ」だ。

「もっと多くの人に、ヴィオラの魅力を知って欲しい。」その思いから出版を企画、紆余曲折を経て、5年越しでこの本ができたそうだ。

確かに、オーケストラや室内楽では、ヴィオラはあくまでもバイプレイヤーだ。しかしこの本に付いてきたCD(ヘンデル作曲「私を泣かせてください」)を聞くと、バイオリンでもなく、チェロでもない、ヴィオラでしかできない表現のあることが分る。

大人の、アルトの声なのだ。

静かに歌いだし、心に取り付き、揺する。

この本の序章、「シオンの奇跡」では、音楽家はどのように音楽と向かい合わなければいけないか、そしてそれを若い人々に伝えたい、と彼女は書きだす。そして…、みんなの心が一つになり、未熟な若い音楽家たちが、たった一回、奇跡の音を奏でることができた。

そのことが、“毎日が音楽でいっぱいだった”桐朋時代を思い出させ、音楽に恋して過ごした日々、どのようにヴィオラと出会ったか、留学生活、演奏家としての自己確立、ヴィオラが弾けなくなった時、次世代へ伝えたいこと、と書きすすめていく。

構成も見事だ。説得力のある文章で、最後まで読者の興味を惹きつける。もちろん編集者の力も大きいのだろう。しかしこの本の魅力は、著者の音楽に対する真っすぐな心と、極めても極めてもまだ満足しない探究心だ。それが直截に伝わってくる。

“人がまだ踏んだことのない雪道を行きたい。”

“ノー・リスク、ノー・グローリー(リスクのないところには栄光はない。)”

彼女の言葉は、腰の重い私を叱咤する。

さあ、今年もガンバルゾ!

上記「シオンの奇跡」を記録したのが、EPSONの「祈り」というCDに入っている。その曲以外に、書籍のおまけCDと同じ「私を泣かせてください」、武満徹の「ア・ストリング・アラウンド・オータム」他。こちらも損のない買い物だと思う。

|

« 一ノ蔵 | トップページ | 椿開花 »

文化・芸術」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

 ananさん こんにちは。
 昨年度No.1とは凄いですね。華奢な外観
にもかかわらず、内に秘めた情熱及び意志の
強さには私も読んで感嘆させられました。
 最近サイトウ・キネンなどへの参加がなく、
寂しいですね。だけど後進の育成にひときわ
熱心な人ですから、優秀な弟子を育て、一緒
に演奏する場面を期待しています。

投稿: kita | 2008年1月25日 (金) 13時17分

kitaさん、お久しぶり。お元気でしたか?

早速の投稿ありがとうございます。この本はkitaさんに勧められたおかげで出会いました。

昨年度No.1としたのは、あまり大した本を読んでいないのかも知れません。一応話題になった本は読んだつもりですが、大げさな宣伝をされた本でも、内容が空疎だったり、暴露本の類も、はたしてどこまで本当か?首をかしげることが多いです。この本は、正面から音楽に向き合う彼女の心が、伝わってきて、読んでいるものを納得させます。本当のことを書いたのだな、と思うのです。

それぞれの曲をどのように弾くか、曲とその作曲家の分析も見事です。平易な文章で説明しているので、私のような素人もよく理解できます。特に武満徹の「ア・ストリング・アラウンド・オータム」をどう演奏するか、悩むあたりは、私の感じる武満徹とすり合わせ、面白く読みました。

それにしても、当時の桐朋の素晴らしかったこと。(今も素晴らしいのですが。)明治に福沢諭吉興したころの慶応義塾のようだったんですね。

投稿: anan | 2008年1月25日 (金) 19時52分

この記事へのコメントは終了しました。

« 一ノ蔵 | トップページ | 椿開花 »