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今井信子 ヴィオラリサイタル

Img_4082_1_2  ヴィオラの音が、豊かに、しなやかに、秋の宵を分けるように響いた。喧噪あふれる都会の中心で、静謐な異次元空間を楽しんだ一夜。

浜離宮ヴィルトゥオーゾの夕べ 第2夜 今井 信子 ヴィオラリサイタル。[2008年10月21日(火) 浜離宮朝日ホール ピアノ:伊藤 恵]

今井信子さんは、友人から借りた本がきっかけで、5月の「熱狂の日(ラ・フォル・ジュルネ)」で初めてその演奏を聴いた。(「熱狂の日」の感想はこちら http://peacelove.cocolog-nifty.com/blog/cat7312022/index.html また本の感想はこちら http://peacelove.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_31bd.html )

5月の演奏は素晴らしかったのだが、ホールにやや難あり。まともなホールでの演奏を聴いてみたいと、チケットを入手した。

演目は以下の通り。

細川俊夫:ヴィオラとピアノのためのリートII、シューベルト:アルペジョーネ・ソナタ、レーガー:3つの無伴奏ヴィオラ組曲Op.13より第1番ト短調、ヘンデル/細川俊夫編:私を泣かせてください、フランク:ソナタ

「熱狂の日」では、今井さんの演奏を2回聴いた。なんと、その2回とも聴きに来ていた初老の男性に、また出会った。ほんとこの人おっかけだ。いや私もだが…。会場は年配の男性が多い。

「ヴィオラとピアノのためのリートII」は、ラ・フォル・ジュルネからの委託による作品。先にフルートとピアノのために書かれた「リート」のヴィオラ版。ナントで開かれたラ・フォル・ジュルネ本家で今井信子さんとフランソワ・キリアン氏のピアノで世界初演され、5月の東京でも同じメンバーで日本初演された。

今回はピアノが伊藤恵さん。初めて聞いたが、やわらかくきれいな音で、よく響く演奏だ。手首がとても柔らかい。上手だと思う。しかし、キリアン氏と比べると、そつなさが目立つ。あくまでも、伴奏という立場を崩さない。

キリアン氏は、冒頭から今井さんに挑むように、ピアノを叩いた。すると、今井さんのヴィオラがお返しをするかの如く、しっかりと呼応する。敵対と調和の隙間を縫うかのように。瞬間、ピアノとヴィオラの間に、丁々発止の火花が散った。

一音も疎かにしない、一音も聴き逃せない。弾き手と聴き手の両方、ホール全体に緊張が走った。

ホールは劣ったが、緊張感は5月の演奏の方が優っている。

伊藤さんが劣ると言っているのではない。包み込むような音色は、素晴らしい。彼女のような伴奏が好きな人もいるだろう。これが違いなのだ。好みの分かれるところ。

それにつけても、感心するのは今井さんの演奏だ。どんな伴奏でもそれに合わせ、しかも自分を失わない。

中盤のソロの演奏で、その見事さがいっそう感じられた。

曲に合わせ、さまざまな音色を出せる。軽やかだったり、深く心に沁みたり、やや悪魔的な、ささくれるような太い音だったり…。

今井さんは、弾く前にヴィオラを抱いて、神経を集中させる。その時の表情は、少女そのもの。やや心細げに。

しかし弾きはじめるやいなや、溢れんばかりの情感が小柄の体躯を包み、舞台を踏みしめる足元に自信がみなぎる。

ホール空間を、完全に今井風にしてしまう。

この日の観客はとても質が良く、曲の終りの終止符さえ、ちゃんと聞いて、それから拍手する。いや、うっとりし過ぎて、拍手が遅れたのかもしれない。

ともあれ晩秋に相応しい、大人の空間だった。

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コメント

鋭いコンサート批評、読み入ってしまいました。

フランクとシューベルトのほかは、
聴いたことの無いプログラム。
興味をそそられますね。

投稿: e | 2008年11月20日 (木) 02時32分

eさん、こんにちは。

とても素晴らしいコンサートでした。特に細川俊夫氏の「ヴィオラとピアノのためのリートII」は、しゃれた曲です。早くCDが出るといいと思います。

それにつけても、今井さんはどの時代の曲も弾きこなします。しかも作曲家が何を意図しているのかをちゃんと踏まえて。そしてほんの少し、今井風をちらつかせるのです。

さらに、ソロの時、ピアノ伴奏のついた時、四重奏の時、それぞれに応じて、それにふさわしい演奏をわきまえています。

投稿: anan | 2008年11月21日 (金) 16時02分

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