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ラ・ボエーム 2012年ザルツブルグ音楽祭

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今年のザルツブルグ音楽祭の目玉は、3つのオペラ。

おなじみの、「ラ・ボエーム」、「カルメン」、「魔笛」だ。

それぞれ人気になる理由がある。「ラ・ボエーム」のミミには、当代一の歌姫、ネトレプコ、「カルメン」のホセには、今テノールで一番と言われるカウフマン、「魔笛」は、アーノンクール指揮による古楽器での演奏というわけだ。

そのうち「ラ・ボエーム」は一番人気。切符が手に入らず、ブラックマーケットでは数十万円の値がついたとの噂も聞いた。

我が友、クラシックのCDディレクターの知り合いで、行きの飛行機で偶然一緒になった音楽評論家は、プレス枠でも取ることが出来ず、大変な思いをしたと語っていた。

我々が、真っ当な手段で切符を入手できたのは、奇跡と言えよう。切符を取ってくれた、知り合いの奔走に感謝である。

というわけで、ザルツのご報告はこの人気オペラからにしようと思う。

最初にお断りするが、私は全くのミーハー根性で、ザルツブルグ音楽祭に興味を持った。生で数多くのオペラを鑑賞しているわけではない。以下のコメントは見巧者から見れば見当違いがあるだろう。しかしそれはそれ、素直な素人の感想を書いてみたい。誤りや分からないことはそのままになってしまうので、諸先輩のご指摘やコメントで補っていただけたら幸いである。

オペラ「ラ・ボエーム」の詳細な配役等は、2012年ザルツブルグ音楽祭のサイト http://www.salzburgerfestspiele.at/en を見てもらえば分かるので、ここでは主なキャスト、気になった歌い手を取り上げる。またストーリーも省く。

指揮はダニエレ・ガッティ、演奏はウィーンフィルハーモニーである。

まずこの舞台の演出が、賛否両論、喧々諤々だった。(演出はダミアーノ・ミキエレット)

第1幕、屋根裏部屋のはずが、コンクリート打ちっぱなしの地下室のようなところ。
雑然と、ベッド、ソファー、段ボール箱などが転がっている。

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(写真はプログラムを撮ったもの。)

ミミの第一声は、そこへ降りてくる階段室(なのかエレベーターなのか分からぬが)から、姿見えぬまま始まる。"Scusi (すみません)"

その声は、この世のものとも思えぬほどの美しさ。もう、この一声で、ネトレプコ様にひれ伏してしまった!

この美声をどう例えたものか分からぬが、深く、甘く、優しく、麗しく、愛しく、しっとり...。

上等なコニャックを、舌の上で転がしたときの香りのよう。

高音だろうが、フォルテだろうが、全く声を張り上げていない。が、力強いのだ。

特に凄いのは弱声。ささやくように歌った声がよーく通る。ザルツブルグ祝祭大劇場の隅々に、2000人を超える聴衆の全てに、よーく聞こえるのだ。

最初、ミミを後ろ向きに立たせて歌わせた。これも驚きだが、どちら向きで歌おうが、全く関係ない。

そして有名なアリア「私はミミ」が終わると、外の雨に煙ったガラスの壁に、裏側から急に出て来た大きな指が、Mimi と書く。

そして舞台は第2幕になるのだが、この演出がまた不思議。

最初はショッピングセンターに大勢の子供とその親達がショッピングカートを押して現れる。

普通なら、クリスマスイブの街頭のシーンだ。

子供達はプレゼントをカートに投げ入れてもらったりして、大騒ぎ。

そこへ、主人公達が登場。背景になっていた街を表すハリボテのビルを崩し、それをテーブル、椅子に見立てて座り込む。

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ここから、レストランでのムゼッタ登場となる。

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このムゼッタ役、ニノ・マチャイゼが、何かの折りに、ネトレプコの代役に立って評判を得たソプラノ歌手だそうだ。

二人が競うことで盛り上がると思ったが、残念ながらこの晩はネトレプコとの差が目立ってしまった。

一人なら十分素晴らしいのだが、何しろ相手が悪い。

ロドルフォ役のピョートル・ベチャワもネトレプコとの二重唱を調和して歌っているので、素晴らしいはずなのだが、ネトレプコが凄いので、普通の上手さに感じてしまう。

私はむしろマルチェッロ役のマッシモ・カバレッティに興味を持った。なかなかの歌手である。これからちょっと注意して追いかけてみたい。

いずれにせよ、ボエームの男性全員の力量が高いので、4人の重唱も心打つものとなった。

これで休憩に入る。

舞台と関係ない話だが、休憩時間が大変である。この日は楽とあって、セレブのオンパレード。

開場時は、彼らの入場を撮ろうと、カメラマンが居並ぶ。

私には誰が誰とて分からぬが、人品骨柄卑しからぬ者ども、皆、手に手に、シャンパン、ワイングラスを持ち、休憩時には場内を歩き回り、自分の存在を知らしめ、また人のなりを見るのだ。

私はこの夜、生まれて初めて、夜会服の衣擦れの音を聞いた。

この夜会服は、この人たちのような立派な体格、特に立派なトルソーがあってはじめて、夜会服たるのだ。大きく開いた胸元には、シャンデリアのように煌びやかなアクセサリー。しかもそれが身に付いていて上品だ。

ともあれ、休憩終了。第3幕に入る。

このシーンは、パリの裏町の暗がりのことが多いのだが、この日の演出は、高速道路脇。バーガー屋の屋台がある。小雪が舞う。とても乾いた無機質の雰囲気の中、ミミの病状重く、もう助からないのだと分かる。

そして、第4幕。

冒頭、借りていた部屋から家財を投げ出されてしまう。どうやら家賃が払えず追い出されたらしい。
そこへムゼッタとミミがやってくる。ミミは外に放り出されたベットにようやくたどりつき、瀕死で横たわる。

ここからのネトレプコが素晴らしい。よく通る弱音で歌うので、ああもうミミは死んでいくのだと、哀れさがます。

今まで見たボエームでは、ミミがあまりに突然死んでしまうので、納得できなかったが、なるほどプッチーニは、このようにオペラを書いたのだ。歌う歌手が、それを表現できなかっただけなのだ、と分かった。

ミミが事切れると、舞台背景の曇りガラスの壁の裏に、また謎の手が出て来て、裏側から Mimi と指で書く。そのあとそれを、指でぬぐい去るように消す。

このオペラについては、前出のように演奏、歌は良しとしても、演出への注文が多いようだ。休憩時間に再会した、飛行機で会った音楽評論家は、この演出を「コンセプトが無い!」と酷評していた。

しかし私は、現在の欧州経済危機を背景に、現代風に置き換えた場面展開が、オペラのテーマを現代によみがえらせたと思う。

第二幕の華やかな消費とボエーム達の貧困、第三幕の無機質な哀しさ、第四幕の外に放り出された家具の中で、ホームレスのように死んでいくミミ。

最後に特筆すべきは、演奏の素晴らしさ。プッチーニらしく、大変ドラマティックに、強弱をつけていた。

歌手に対して、みじんも気を使わないフォルテ。それを受けて、全くひるまず、しっかりと会場全体に歌を響かせる歌手達。オケの力で、歌手達の最高の声を引き出している。

ウィーンフィルは、華麗で、粋で、つやっぽく、色っぽい。

以上、拙い筆だが、少しでも皆様に様子をお伝えできただろうか?

ご意見、ご質問あれば、是非伺わせていただきたい。

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コメント

同じオペラを聴くにしても、オペラが生活の中に根づいている現地でしかもセレブも混じった素晴らしい雰囲気の中で聴くのと、日本のコンサートホールで耳にするのとでは、まったく別次元の体験になるのでしょうね。
贅沢な時間をお過ごしになられて、本当に羨ましい。

投稿: three-ring | 2012年8月29日 (水) 19時09分

こんばんは、観られたのは、ラ・ボエームでしたかぁ。
しかも、写真を拝察すると現代風ですね。
僕も、いつか行ってみたいなぁ・・・と思いました。

投稿: 写真道楽人 | 2012年8月29日 (水) 20時55分

お写真素敵ですね~♪

目の前で見れるなんて良いな~(*^_^*)迫力あるだろうな~って憧れます!ananさんの説明が解りやすくて、ジックリ読んでしまいました(*^_^*)

長旅でお疲れもジワジワ出てきたりしますから、体をゆっくり休めてくださいね(*^_^*)

投稿: シオン | 2012年8月29日 (水) 22時32分

ananさん

私は、この手の話はよくわかりませんが、
ものすごくいい経験をされたと思います!
本場で見るオペラ他、機会があるかわかりませんが、
一回鑑賞できたらいいな…

投稿: マイグリーン | 2012年8月30日 (木) 07時07分

こんにちわ~。造詣が深くていらっしゃるんですね~。私も数年前にウイーンとザルツ回ってきましたが、ナンチャってオペラのディナーショー行っただけですわ。路上ミュージシャンがアイネクライネやってるのを聴いたりとかね。もうちょっと勉強せねば!

投稿: NAOKO♪ONODERA | 2012年8月30日 (木) 08時50分

★ Three-ring様、はい、夢がかないました。嬉しかったです。

★ 写真道楽人様、この他「カルメン」、「魔笛」、「迷宮(魔笛の続編)」を観たのですが、全て斬新な演出でした。おいおいご紹介します。

★ シオン様、本当に素晴らしくて、まだ夢心地。電車を乗り過ごしたりしています。

★ マイグリーン様、私も最初に憧れてから30年以上。夢は思い続ければかなうのですね。

★ NAOKO♪ONODERA様、造詣などとんでもない。ただのミーハーです。でも超一流のものは、どんな素人にもわかります。逆に2流、3流の素晴らしさは、見巧者でなければ分からないのではないかと。

投稿: anan | 2012年8月30日 (木) 11時00分

ananさん、
レポート、ありがとうございます
確かにちょっと不思議な演出のようですね。
でもMimiの死に至るいきさつは助かりました。
椿姫もそうですが
案外歌舞伎やオペラって分かりやすいですね。
うふふ♡
この次のレポートも楽しみにしています

投稿: こごろう | 2012年8月30日 (木) 14時17分

こごろうさん、そうです。歌舞伎、オペラ、ミュージカルは、みんな単純なストーリーが多いです。それでも楽しいんですよね。何しろ華やかなんですもの。
はい、また続きのレポートを楽しみにしてください。

投稿: anan | 2012年8月30日 (木) 17時17分

ザルツブルク、ボエーム、、、う〜ん、なんとも羨ましい。

このボエームの舞台、NHKで観ました。(8月1日の公演)
ザルツブルクの放映はいつも前年のもの、と思い込んでいたので、
ちょっと意外な発見です。
といっても録画だけして、まだちゃんとは観てないんですけどね、
ともかくネトレプコの登場するシーンだけを飛ばし見したり。

新演出が当たり前になったのはいつ頃からでしょう?
モダンになって(アジア人にも)分かりやすく、しかも質の高い舞台もありましたが、
その逆の演出もありました。
オペラの新演出は社会、文化の長い歩みの中で生まれてきた必然でしょう。
反面、その舞台を観るたびに(もっぱらテレビですが)、
なにか半分は見ていない、いや見えていないものがあるなぁ、と感じます。
これ、どこかサッカー観戦に感じるなんとはなしの欠乏感に、
どこか似ているかもしれません。

三十年も昔の旧演出?のザルツブルクの舞台が、
なんとなく懐かしく感じられるのも正直なところです。
(進歩がないなぁ)))

投稿: eguchii | 2012年8月31日 (金) 12時34分

eguchii様、コメントありがとうございます。

ラボエームのプログラムに“NHK協力”と入っていましたので、最初から放映権を得ていたのでしょう。TVはどんなかしら?見たいです。

以前のザルツブルグ音楽祭は、オペラにそれほど力を入れてなかったと聞きます。指揮者もあまりオペラを振ってない人だったり。

今は、秋からのオペラシーズンに先駆け、聴衆の反応を見るところのようです。ここで新しいことをして、当たればそのまま秋からのウィーンで上演するのだそうです。

善しあしはともかく、見る方は、一体何が起こるのか、片時も目が離せません。休憩時間は、この後どうなるか、友人と意見交換したり、それはそれで結構楽しいです。

“サッカー観戦に感じるなんとはなしの欠乏感に似ている”とは、「TVカメラに映っていないところで起こっていることが、分からない。」、また「現場の空気感が写らない。」の意でしょうか?

近いうちに、一献傾けながら、ゆっくりお話ししたいですね。

投稿: anan | 2012年9月 1日 (土) 10時49分

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