« 当世西洋オペラ事情 (追加写真あり) | トップページ | ミケランジェロ 未完のピエタ 「ロンダニーニのピエタ」 »

危うし!ヨナス・カウフマン! 「イル・トロバトーレ」

Dscn0935

さて7月にミュンヘンとミラノへ行った話の続き。

渡航先にミュンヘンを選んだのは、ミュンヘン・オペラ・フェスティバルがあるからだ。

このフェスティバルは、1875年が最初で、その後規模が拡大し、今では毎年6月から7月にかけて行われる。

一年間で評判の良かった作品を再演するので、ザルツブルグより、質が高いと言われているそうだ。

私たちが見た、「ファルスタッフ」、「椿姫」、「シモン・ボッカネグラ」、「ナキソス島のアリアドネ」(これだけがリヒャルト・シュトラウス作品)、これらは全て再演。

現地で運良く、キャンセル待ちで切符を入手した「イル・トロバトーレ」だけが初演。

そのためかミュンヘン国立歌劇場の壁は、このパネル写真が、所狭しと飾られていた。

どうすれば「イル・トロバトーレ」の切符を入手できるか?

出発前に、事務局に問い合わせたところ、出演者に割り当てられた切符が、キャンセルがあると当日売りに出てくると聞いた。

まず95%は無理と承知で列に並び、待つこと2時間。

幸運にも、開演15分前に最後の切符をゲット。

まさか取れると思わないから、観光帰りのジーンズにスニーカー。

それでも、周りの人の拍手喝采に送られ、小躍りしながら劇場に入った。

私たちの席は4階とはいえ、真っ正面の一番前。天にも昇る気持ちだった。

「イル・トロバトーレ」とは、吟遊詩人という意味で、舞台設定は15世紀のアラゴン地方。

この地の貴族ルーナ伯爵家の次男が病弱で、それはジプシーの老婆の呪いのせいとされ、老婆は火あぶりにされる。

この老婆の娘(アズチェーナ:メゾ)が、伯爵家の次男をさらい、火の中に投げ入れるつもりが、あわてて自分の子を火の中へ。仕方なく次男を自分の子(マンリーコ:テノール)として育てる。

その後、マンリーコは成人し、アラゴン王妃の美人女官(レオノーラ:ソプラノ)と相思相愛。

ルーナ伯爵家の長男(ルーナ伯爵:バリトン)も立派に成人。家を継ぐが、レオノーラに恋心を抱く。

物語はこの三画関係と、ジプシーのアズチェーナの復讐が絡み合って展開。

最後は、自分の弟とは知らず、ルーナ伯爵がマンリーコを処刑してしまい、アズチェーナが「おまえは自分の弟を殺したのだ!母さん、かたきを取りました。」と叫んで終わる。

荒唐無稽の話だが、オペラの筋書きはどれもこんなもので、大事なのは音楽の美しさなのだ。

最初は、黒い衣装の男性ダンサー達が登場。そのあと、ジプシーの老婆役の女性ダンサーが、白髪を振り乱し、ヌードと見間違えるような薄い白衣装であらわれる。

舞台と衣装がモノトーンの中、くすんだオレンジ色の赤子の人形2体(まだへその緒がついたまま)を、ジプシーの老婆や黒衣装のダンサーたちが放り投げ、伯爵家の子供と老婆の娘の子供が取り違えられたこと、老婆とともに火あぶりにされたことを、踊りで表現。

ジプシーの老婆が実に不気味で、この老婆の怨念が、これからの物語を支配することが分かる。

Dscn0932

(写真は、老婆と、老婆の娘アズチェーナ役のElena Manistina、マンリーコ役のKaufmannカウフマン)

そして女官レオノーラ(Anja Harteros)の登場。アリア「穏やかな夜」を歌う。この人の声のすごいこと。声量もたっぷり。最初から惜しげなく声が出る。

Img_20130811_124720

(ブロマイド写真より)

さあ、満を持してマンリーコ(Jonas Kaufmann ヨナス・カウフマン)の登場!三階建ての舞台装置の一番上から歌い始める。

これがこれが、なんと!声が出ない!高音を力で無理やり出している。

昨年ザルツブルグで聞いた時は、何の問題もなく、力強い声だった。

カルメン役のコジュナの声が細いので、バランスを取るため声量を調整しているくらいだったのに。

えー!もう私はハラハラドキドキしてしまう。

幸いなことに、そのあとすぐに調子を取り戻し、レオノーラ、マンリーコ、ルーナ伯爵(Alexey Markov)の三重唱は、力強く、素晴らしかった。

二幕目は「アンヴィルコーラス(鍛冶屋の合唱)」で始まるが、この時のダンサー達の舞踏が、また出来が良い。

そのあと登場のアズチェーナ(Elena Manistina)、声の堂々としたこと、表現力のある歌声には驚かされた。

今回は主役級の4人、レオノーラ、マンリーコ、ルーナ伯爵、アズチェーナが、全部力量ある歌手で配役され、聞き応えのある、バランスの良い、オペラになっていたと思う。

その後、カウフマンは安定して素晴らしい歌声を披露。全く問題なかったのだが、最初の不調に、終わりまで心配。片時も目を話すことが出来なかった。

Img_20130811_124912_2


(写真は「見よ、恐ろしい炎を」歌うマンリーコ役のカウフマン:ブロマイド写真より)

今回見たオペラの中で、一番ドキドキしたかもしれない。

さすれば、もしかして、わざとしたの?

Dscn0945

(写真はカーテンコールに答える出演者達)

☆ここに使った写真は、最後のカーテンコール以外、劇場の外に飾ってあったパネル写真とブロマイド写真を使いました。そのため見にくいと思いますがお許しを。

★ ★ ★ ★ ★

カウフマンは幕間に手品にも登場。箱に入って2つに切られたりしました。

私は観客へのサービスと好意的に見ましたが、我が友人のCDディレクターは、非常に批判的でした。

すなわち、これはマンリーコが最後に処刑される暗示で、全ての演出が、老婆の怨念や、子供の取り違えに対して、グロテスクな説明をしすぎである、もっとベルディのオペラそのものを、いじらず見せてほしい、との意見でした。

私は半分同意しながらも、イタリア語のオペラをドイツでやる以上、説明的になるのはいたし方ないと思います。

これほど有名なオペラなので、まずはともかく、人と違うことをしなければ意味がない、との演出家の思いは良く分かります。

他にも踊りで出産の場面を表現したり、やや、やり過ぎの感はありましたが、舞踏そのものの質の高さ、ぎりぎりで表現に品格を保っていたこと、またこのグロテスクさが、ある意味ドイツ的であるとも言えるので、私はこの演出に関しては、興味深く受け止め、合格点をあげたいと思いました。

舞台芸術としては、モノトーンの中に、赤、ピンク、オレンジを挿し色として使い、綺麗でした。なかなかお金をかけていたと思います。

オーケストラ、歌手、踊り手、全ての人々が一生懸命取り組み、音楽的には素晴らしい舞台でした。

見れて本当に良かったと思います。

主役級の4名の歌手以外に、レオノーラの侍女役を演じたGolda Schultz(ソプラノ)も上手で、気になる歌手でした。

|

« 当世西洋オペラ事情 (追加写真あり) | トップページ | ミケランジェロ 未完のピエタ 「ロンダニーニのピエタ」 »

音楽」カテゴリの記事

旅日記」カテゴリの記事

コメント

ananさんの文章力はすばらしいですね
オペラを知らない私でもポイントを押さえた文章力でナットクしちゃいました。

投稿: 姉さん | 2013年8月11日 (日) 21時04分

★ 姉さん様、コメ返し遅くなりごめんなさい。
大したことない駄文をお褒めくださり、ありがとうございます。
でも書くことにより、あの夜の興奮がよみがえってきました。
帰国後、友人の知り合いの音楽評論家ですら、
この切符がついに取れなかったと聞き、
見れて本当に運がよかったです。

投稿: anan | 2013年8月20日 (火) 20時49分

この記事へのコメントは終了しました。

« 当世西洋オペラ事情 (追加写真あり) | トップページ | ミケランジェロ 未完のピエタ 「ロンダニーニのピエタ」 »